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東京地方裁判所 平成9年(ワ)3588号 判決 1998年3月20日

イタリア国二〇一二二 ミラノ ピアッツァ デューセ四

原告

トラサルディ ソチエタペル アチオニ

右代表者

ニコラ トラサルディ

右訴訟代理人弁護士

三山峻司

東京都豊島区西池袋四丁目一五番一三号

被告

共済メール株式会社

右代表者代表取締役

広瀬郁夫

右訴訟代理人弁護士

大久保建紀

"

主文

一  被告は、衣類に別紙被告標章目録第一ないし第三記載の標章を使用してはならず、衣類の宣伝広告に同目録第一ないし第四記載の標章を使用してはならない。

二  被告は、別紙被告標章目録第一ないし第三記載の標章を付した衣類及び同目録第一ないし第四記載の標章を使用した衣類の通信販売商品カタログを製造し、譲渡し、引き渡し、または譲渡のために展示してはならない。

三  被告は、その所有にかかる別紙被告標章目録第一ないし第三記載の標章を付した衣類及び同目録第一ないし第四記載の標章を使用した衣類の通信販売商品カタログを廃棄せよ。

四  被告は、原告に対し、金九三五万円及びこれに対する平成九年三月七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

五  訴訟費用は被告の負担とする。

六  この判決は、第一項ないし第四項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一  請求

主文同旨

第二  事案の概要

一  原告は、別紙原告標章目録第一ないし第三記載の標章(以下、各標章を「原告標章一」「原告標章二」「原告標章三」という。)につき商標権を有し、また、右標章等を付した商品を製造、販売する等しているところ、被告が、別紙被告標章目録第一ないし第四記載の標章(以下、各標章を「被告標章一」「被告標章二」「被告標章三」「被告標章四」といい、右標章をあわせて「被告各標章」という。)を使用して衣類の製造、販売及びその宣伝広告を行った。本件は、原告が被告に対し、不正競争防止法二条一項一号または同項二号への該当若しくは商標権侵害を理由として、被告各標章の使用の差止め及び被告各標章を付した衣類等の廃棄、並びに損害賠償の支払いを求めた事件である。

二  前提となる事実

1  原告

原告は、イタリア国の服飾デザイナー「NICOLA TRUSSARDI」(ニコラ トラサルディ)氏を代表者とするイタリア国法人である。(争いがない)

2  被告

被告は、出版業、日用品雑貨等の販売業及び輸出入業などを営業目的とする株式会社であり、全国の共済組合員を対象に、月刊誌「共済ニュース」を発行し、同誌を媒体として通信販売業を営んでいる。(争いがない)

3  原告の商品表示

原告は、紳士服、婦人服、スカーフ、靴下等の衣類をはじめ、寝具、皮革製バッグ、靴、眼鏡、時計、煙草用品、ブレスレット等のアクセサリー、ゴルフ用品等のスポーツ用品などの各種商品を製造、販売し、これらの商品に「TRUSSARDI」の文字からなる標章(原告標章一)あるいはグレイハウンド(犬)と主張する動物と盾を組合わせて図案化した標章(原告標章二)、これらの標章を組合わせた標章(原告標章三)を商品表示として継続して使用している。また、「トラサルディ」の文字を横書きまたは縦書きした標章(以下、「原告標章四」という。なお、原告標章一ないし四をあわせて「原告各標章」という。)も、右商品の広告宣伝等において、商品表示として使用している。

なお、原告各標章は、日本国内においては、訴外伊藤忠商事株式会社(以下「伊藤忠商事」という。)とライセンス契約が締結され、同社を窓口として二九の企業にサブライセンスされ、右サブライセンシーも右各標章を商品表示として継続して使用している。(以下、原告標章一ないし三を付した原告の製品及びサブライセンシーの製品をあわせて「原告製品」という。)(甲一一、甲一三の二ないし六五、甲一五の一ないし三〇、甲一七の二ないし五八、甲二〇の二ないし六三、甲二一の二、甲二三の一及び二、甲二四の一ないし六、甲二五の二ないし三四、甲二六の三ないし五一、甲二七の三ないし九、甲二九の一ないし六〇)

4  原告商標権

原告は左記の各商標の登録権者である(商標原簿上の登録者は、「トルツサルディ ソチエタ ペル アチオニ」となっている。)。(甲一の一及び二、甲二の一及び二、甲三の一及び二)

(一) 登録番号 第一三六〇〇二三号

出願年月目 昭和四九年一〇月三〇日

出願公告年月日 昭和五二年一二月一三日

登録年月日 昭和五三年一一月三〇日

更新登録年月日 昭和六三年一〇月二五日

指定区分 第一七類(旧分類)

指定商品 レインコート、その他本類に属する商品

登録商標 別紙原告標章目録第一のとおり

(二) 登録番号 第一七三〇二〇三号

出願年月日 昭和五四年一月二六日

出願公告年月日 昭和五七年一一月二九日

登録年月日 昭和五九年一一月二七日

更新登録年月日 平成六年一〇月二八日

指定区分 第一七類(旧分類)

指定商品 被服、布製身回品、寝具類

登録商標 別紙原告標章目録第二のとおり

(三) 登録番号 第一八七七五六三号

出願年月日 昭和五七年一二月八日

出願公告年月日 昭和六〇年一一月一三日

登録年月日 昭和六一年七月三〇日

更新登録年月日 平成八年五月三〇日

指定区分 第一七類(旧分類)

指定商品 紳士服、その他の被服、布製身回品、寝具類

登録商標 別紙原告標章目録第三のとおり

5  被告の行為

被告は、被告標章一ないし三を付した半袖ポロシャツ及び鹿の子ポロシャツ(以下、あわせて「被告製品」という。)を製造して、平成七年三月以降これを販売し、この衣類の通信販売商品カタログに被告各標章を使用している。(甲四の一及び二、甲六の一、甲九の二、乙二の二、検甲一、検甲二の一ないし四)

三  争点

1  著名性

(一) 原告の主張

原告は、積極的に著名な新聞、雑誌、テレビなどのコマーシャル等を通じて日本国内において広く原告製品の宣伝広告活動を行い、ここ数年でも少なくとも毎年四億円余りにも及ぶ宣伝広告費を支出している。また、日本国内においては、伊藤忠商事を窓口として、三〇の企業にサブライセンスされている。

このように、一般消費者において原告各標章の知名度は高く、原告各標章の付された商品は好評で、平成七年三月時点では、原告各標章は、日本国内において著名な商品表示となっていた。

(二) 被告の反論

原告の主張を否認する。

2  類似性

(一) 原告の主張

被告各標章のうち文字部分は、「TRUSSARDI JOHNS」の欧文字が上下二段に横書きに、または「トラサルディジヨーンズ」の仮名文字が一連横書きになっており、被告各標章は原告の著名な標章である「TRUSSARDI」、「トラサルディ」を含む標章である。また、被告標章二のうち図形部分は縞馬ということであるが、原告の著名な標章であるグレイハウンド(犬)の図形と極めて外見上酷似している。したがって、原告各標章と被告各標章とは外観、称呼において共通し、類似している。

(二) 被告の反論

被告各標章の文字部分は「TRUSSARDI JOHNS」または「トラサルディジヨーンズ」であって、原告商標一、三及び四の文字部分とは異なり、また、被告標章二の図形部分の動物は「縞馬」であって、原告商標二及び三の図形とは異なる。したがって、被告各標章は原告各標章とは類似しない。

被告は「TRUSSARDI JOHNS」、「トラサルディジョーンズ」なる商標出願の公告を得ている(商願平五-一二四四一二号、商標出願公告平八-二七四二八号、指定商品二五類)。

3  周知性

(一) 原告の主張

前記1(一)のとおり、平成七年三月時点では、原告各標章は日本国内で周知であった。

(二) 被告の反論

原告の主張を否認する。

4  類似性及び商品表示主体の誤認混同

(一) 原告の主張

前記2(一)のとおり。

不正競争防止法二条一項一号における類似性は、混同のおそれがあるほど似ていると解され、類似判断は標章の現実の使用状況・混同惹起の恐れなどを勘案して具体的になされなければならない。また、混同の恐れは、商品の同種性と標章の近似性が強いほどその危険が強く、標章の周知性の滲透度の強いときには、いつそうその危険性が強くなる。

本件においては、共済ニユースという通販誌上に商品写真が掲載され、共済組合員である顧客の注文に応じて商品が販売され送付される。また、右通販誌には、表紙に「秋の一流ブランド商品満載!」とあり、被告各標章が付された商品の掲載頁には「人気ブランド半袖ポロシャツ大特集!」とあり、他のブランド商品とともに被告商品が掲載されており、誤認混同の恐れがあることは明らかである。

(二) 被告の反論

前記2(二)のとおり。

混同の恐れはない。

(商標権侵害について)

5  類似性

原告の主張及び被告の反論

前記2(一)及び(二)のとおり

(すべての請求について)

6  損害額

(一) 原告の主張

(1) 逸失利益の損害について

被告の平成八年一一月五日時点での被告製品の売上総金額は二〇〇七万〇三〇〇円であり、仕入総金額は一一七一万七〇八〇円であって、被告が八三五万三二二〇円の粗利益を得ていることは明かである。原告は、不正競争防止法五条一項または商標法三八条一項により、右被告の得た利益額のうち八三五万円を原告が受けた損害として請求する。

(2) 信用毀損による損害について

原告各標章の使用商品が、厳格な品質管理のもとで、イタリアのオリジナルコレクシヨンと同じイメージを打ち出すことを目的として、原告は、原告各標章にエレガントでモダンな高級イメージが化体されるように、原告をはじめ各ライセンシーが原告各標章を使用するにあたり腐心してきた。したがって、安売りはイメージを守るために特別なクリアランスセール期間以外は、これまで一切禁止してきた。ところが、被告製品については、定価一万一八〇〇円の値札を付けて、二九八〇円というディスカウント価格で販売しているような印象をことさら取引者や消費者に与えるような販売態様がとられている。また、被告の販売しているポロシャツは、原告のライセンシーが製造販売しているポロシャツと比較するとその品質が劣っている。さらに、被告通販誌は、相当の発行部数を配布していると思料され、その通販誌上において、原告各標章を付した商品がディスカウントされていると誤解されるだけでなく、右商品の品質が劣るということであれば、原告は評価し得ない莫大な損害を被る。よって、信用毀損による損害は、少なくとも一〇〇万円を下らない。

(二) 被告の反論争う。

第三  争点に対する判断

一  争点1(著名性)について

1  原告製品の販売状況、広告・宣伝状況については、次の各事実が認められる。

(一) 原告は、自ら製造し、原告標章一ないし三を付した前記原告の製品を、伊藤忠商事を介して、日本に輸出し、日本国内で販売業者が販売している。また、伊藤忠商事は、一九八六年(昭和六一年)、原告各標章及び第二、二4記載の各登録商標につき、当時の右登録商標の商標権者であったトルツサルデイ ソチエタ レスポンサビリタ リミタータと日本国内における独占的ライセンス契約を締結し(原告は、平成二年三月一日、同社から右登録商標の商標権を譲り受けた。)、伊藤忠商事は更に日本国内の二九の会社にサブライセンスしており、右サブライセンシーも原告各標章を付した衣服、時計、眼鏡、靴、寝具、ゴルフ用品・テニス用品等のスポーツ用品、日用品等を製造、販売している。(甲一の二、甲二の二、甲三の二、甲一一)

(二) 原告及び伊藤忠商事は、日本国内においても、積極的に原告各標章及びそれを使用した原告製品の広告宣伝活動を行ってきたもので、新聞、雑誌、テレビ、電照看板、駅貼ポスター等に毎年少なくとも四億円の費用をかけている。具体的に平成四年一一月から平成七年二月にかけての広告宣伝活動をみると、衣類、時計、靴、眼鏡、バッグ、ゴルフ用品、装飾品、身回品等の原告製品についての広告、ニコラ・トラサルディや原告製品に関する記事を、毎月のように、「AERA」「Agora」「L&G」「セサミ」「ウインズ」「FIGARO」「25ans」「BRUTUS」「ミス家庭画報」「NEWSWEEK」「プレジデント」「Esquire」「GQ」等、ファッション雑誌に限らず、男女幅広い読者層を有する多数の雑誌に掲載したほか、目本経済新聞(全国版、大阪版、名古屋版ないしは西部版)、毎日新聞(東京版)などの新聞にも広告を度々掲載した。右原告製品の広告は、新聞の全頁大、全一〇段、全五段、雑誌の一頁、見開き二頁、タイアップ四頁、タイアップ六頁等スペースが大きく目立つものが多く、原告標章二を上に原告標章一を下に二段に併記したもの、あるいは原告標章三が大きく表示され、原告標章四が表示されているものもあった。また、多数回にわたり各種雑誌の商品紹介記事等のために各種原告製品を貸出し、単品であるいはモデルが着用した状態で紹介され、商品の出所として小さな文字であっても原告標章四が掲載された。(甲一一、甲二〇の一ないし八及び四〇ないし四七、甲二五の四ないし六及び一五ないし一七、甲二六の一ないし五〇、甲二七の一ないし九、甲二八、甲二九の一ないし六〇)

更に、平成六年八月一日から平成八月三月末日までは、関西国際空港内に電照看板も掲出した。(甲一八の三、甲二一の二、甲二六の二及び五一)

(三) 平成元年六月に、原告各標章と類似した標章を付した原告製品である衣料品の偽造品を販売した卸業者及び販売業者が逮捕されたことがあり、右逮捕に関する記事は読売新聞、朝日新聞、毎日新聞、産経新聞等の新聞に、「偽ブランドで荒稼ぎ「トラサルディ」などで一億円」「ニセ「トラサルディ」販売」などの見出しを付して掲載されたが、右見出し自体、「トラサルディ」が有名ブランドで、多くの読者がそれ以上の説明なく理解できるとの新聞の編集者の認識を示すものであると共に、記事中でも、「「トラサルディ」など十一の有名ブランド」、「イタリアの有名ブランド「トラサルディ」」、「イタリアの一流ブランド「トラサルディ」」との言及があり、我が国の複数の大新聞の記者が「トラサルディ」を有名ブランドとして認識していたことを示していた。(甲三〇ないし三八)

(四) なお、平成七年三月以降も、原告製品の広告、ニコラ トラサルディや原告製品に関する記事は、原告各標章と共に、「NAVI」「BRUTUS」「Esquire」「25ans」「翼の王国」「FIGARO」「CLiQUE」「miss家庭画報」等の雑誌に、右(二)と同様大きなスペースに目立つ態様でたびたび掲載されているほか、日本経済新聞(全国版、東京版、大阪版、名古屋版または西部版)、毎日新聞(東京版、大阪版)、読売新聞(東京版)等の新聞に、大きなスペースで、しばしば掲載されている。また、東京地区、大阪地区を中心に、名古屋等全国の主要都市の主要駅に、原告各標章を付した大判のポスターが掲出されている。更に、右(二)と同様多数回にわたり、各種雑誌の商品紹介記事に貸出された各種原告製品が掲載され、商品の出所として原告標章四が掲載された。(甲一二の一ないし四、甲一三の一ないし六五、甲一四の一ないし三、甲一五の一ないし三〇、甲一七の一ないし五八、甲一八の一ないし三、甲二〇の九ないし三九及び四八ないし六三、甲二三の一及び二、甲二四の一ないし六、甲二五の一ないし三、七ないし一四及び一八ないし三四)。

2  右認定事実によれば、原告各標章は、平成元年には有名ブランドの一つとして原告の商品表示として知られており、その後も積極的な宣伝活動等により、平成七年三月の時点では既に、原告の商品表示として全国的に著名になっていたと認めることができる。

二  争点2(類似性)について

1  原告標章一は、欧文字の「TRUSSARDI」を横書きにしてなるものであり、「トラサルデイ」の称呼を生じるものと認められる。

原告標章二は、左方を向いた、鼻面が長く、首の長い白色のやや擬人化された動物(原告はグレイハウンド種の犬と主張する。)の首から上の図形の首の下に続いて、上部が幅広く下方が狭まる西洋の盾の図形を組合わせてなる図形であり、動物の頭部右上には右方へ耳状のものが僅かに突出し、首には白い玉のついた黒い首輪がつけられており、また、盾には、右上方から左下方に向かって緩く波打った黒の線が二本表われている。

原告標章三は、原告標章二と同じ図形の下方に、原告標章一と同じ「TRUSSARDI」の欧文字を横書きしたものを組合わせてなるものである。

原告標章四は、片仮名の「トラサルディ」を横書きまたは縦書きにしてなるものである。

2  被告標章一は、欧文字の「TRUSSARDI」を横書きにした下方に、小さ目の欧文字の「JOHNS」を横書きし、更にその下方に一段と小さ目の欧文字の「Made in Italy」を横書きしてなるものである。このうち、「Made in Italy」は、一般消費者に商品の生産地を表示するものと理解される表示であり、標章の要部とはいえない。

次に、「TRUSSARDI」の文字は、被告標章一の一番上に表示され、しかも「JOHNS」や「Made in Italy」の文字に比べ大きく、若干太い文字からなり、外見上からも被告標章一は「TRUSSARDI」が目立つ構成になっている。このことと、前記のとおり原告標章一は原告製品の標章として著名であり、しかも、「TRUSSARDI」は、原告標章一と同じ綴りであることを考慮すると、一般消費者は被告標章一のうち「TRUSSARDI」の部分が被告標章一の付された商品の出所を示すものと理解すると認めるのが相当である。したがって、被告標章一の要部は、「TRUSSARDI」の部分にあると認められる。

そこで、原告標章一と被告標章一の要部とを対比すると、その外観はいずれも「TRUSSARDI」の欧文字であって同一であり、その称呼も「トラサルデイ」であって同一である。したがって、被告標章一は原告標章一と類似していると認められる。

3  被告標章二は、左方を向いた鼻面が長く首の長い動物の、首の下方の胴体に相当する部分が上部がやや膨らんだ徳利状の図形(被告は右動物を縞馬と主張する。)の下方に欧文字の「TRUSSARDI」を横書きし、更にその下方に同じ大きさの欧文字の「JOHNS」を横書きしてなるものである。右図形の動物の頭部右上には上方へ耳状のものが僅かに突出し、首に右側から左側やや下方に向かって一本、胴体部分に右上方から左下方に向けて斜めに三本、黒い縞があるが、一番下の縞は短く目立たない。右動物の首から頭部にかけての右端にはたてがみと見られる縞状の部分があるが、不分明で目立たない。

被告標章二の文字部分は、「TRUSSARDI」が「JOHNS」より上方に表示され、前記のとおり、原告製品の標章として著名である原告標章一(原告標章三の文字部分)と同じ欧文字の綴りであることを考慮すると、「TRUSSARDI」の部分に識別力があると認めるのが相当である。また、被告標章二の動物の図形もそれなりの特徴を有し、消費者の注意を惹くものと認められるから、右図形部分もまた識別力を有するものと認められる。したがって、被告標章二については、動物の図形及び「TRUSSARDI」の文字部分がそれぞれ要部であると認められる。

そこで、原告標章一と被告標章二の要部である「TRUSSARDI」の文字とを対比すると、原告標章一と被告商標二の要部の文字部分とは、その外観及び「トラサルディ」の称呼も同一である。次に、原告標章二と被告標章二の要部である図形とを対比すると、原告標章二は、原告がグレイハウンドと主張する動物と西洋の盾とを一体に組み合せた図形であるのに対し、被告標章二の図形部分は、被告が縞馬と主張する動物の図形である。しかし、いずれの図形も、動物の頭部であることは識別できるが、特徴の表現が充分でなく、グレイハウンド、縞馬のいずれも、そう言われればそう見えるという程度のものであり、一般人が一見してそれと識別できるものではない。原告標章二のグレイハウンドも、被告標章二の縞馬も左方を向いた鼻面が長く、首も長い動物として表現されており、縞馬の首にある黒い縞は、グレイハウンドの黒い首輪と対応する位置にあり、その形状も似ている。更に、縞馬の「胴体部分は、上部がやや膨らんだ徳利状で、しかも右上方から左下方に向けて斜めに三本黒い縞があり、その形状、模様は、グレイハゥンドの首に連続して表示されている盾の形状、模様に酷似している。他方、縞馬にはたてがみ樣のものが表現されているものの不分明で、図形全体から見ると、目立たない構成になっている。また、縞馬の耳は、グレイハンドの耳とは、突出する方向、形状が異なるものの、図形全体から見ると、いずれの耳も小さく表示されている。以上の諸点を考慮すると、原告標章二と被告標章二の図形部分とは細部の相違はあっても、全体的に隔離観察すると彼此混同するほどに、類似していると認められる。

以上のとおり、被告標章二は原告標章一及び二と類似するものと認められる。

4  被告標章三は、白抜きの欧文字の「TRUSSARDI」を横書きした下方に、同じ大きさの白抜きの欧文字の「JOHNS」を「TRUSSARDI」と頭を揃えて横書きしたものを七組上方から下方へ連ねたものを下地模様とした上の中央部分に重ねて、欧文字の「TRUSSARDI」を横書きし、その下方にやや小さな欧文字の「JOHNS」を横書きし、その下方に更に小さな欧文字の「TRADITIONAL」を横書きし、更にその下方に同様の小さな欧文字の「REFINED SENSE」を横書きしたものである。

まず、下地模様はその上に重ねて表示されている文字部分に比べ、目立たないように表示されており、標章の要部とはいえない。

次に、下地模様の上に重ねて表示されている文字部分について検討するに、「TRADITIONAL」と「REFINED SENSE」は、「TRUSSARDI」と「JOHNS」の下方に、これらの文字よりも小さな文字で書かれており、しかも、「TRADIT10NAL」は「伝統的な」、「REFINED SENSE」は「上品なあるいは洗練された感覚(センス)」という意味の英語であることは、一般に認識されており、いずれも商品に対する説明的、修飾的な意味の言葉である。これに対し、「TRUSSARDI」は一番上に一番大きな文字で表示され、しかも「JOHNS」等の他の文字に比べ大きな文字で表示され、外見上からも一番目立つような構成になっている。更に、前記のとおり、「TRUSSARDI」は、著名である原告標章一と同じ欧文字の綴りであることを考慮すると、被告標章三は右文字部分のうち、「TRUSSARDI」の部分に識別力があると認めるのが相当である。したがって、被告標章三については、中央の「TRUSSARDI」の文字が要部であると認められる。

そこで、原告標章一と被告標章三の要部とを対比すると、その外観はいずれも「TRUSSARDI」であって同一であり、その称呼も「トラサルディ」であって同一である。したがって、被告標章三は原告標章一と類似すると認められる。

5  被告標章四は、片仮名の「トラサルディジョーンズ」を横書きしたものである。そして、原告標章四が原告製品の商品表示として著名であること及び「ジョーンズ」が英語の人名として我が国の一般国民に知られている語であることを考慮すると、被告標章四は、一連に記載されているが、前半の「トラサルディ」と後半の「ジョーンズ」に分けて識別され、その要部は前半の「トラサルデイ」であるものと認められる。

原告標章四と被告標章四の要部とは外観も称呼も同一であり、原告標章四と被告標章四とは類似であると認められる。

三  以上のとおりであるから、平成七年三月以降、被告が被告製品を製造、販売した行為は不正競争防止法二条一項二号の定める不正競争行為に該当し、原告の被告に対する差止請求及び廃棄請求はいずれも理由がある(同法三条一項、二項)。

なお、被告製品は現在は製造、販売していない旨の被告の原告代理人に対する平成八年一一月六日付回答書及び被告代理人の原告代理人に対する同月八日付の回答書があるが(甲九の一、甲一〇、乙二の三及び四)、「これらは単に製造、販売の中止を述べたにとどまり、かかる事実を客観的に裏付け、あるいは今後製造、販売しないことの確証につながるものではなく、その他、製造、販売中止の事実を認めるに足りる証拠はない。

四  争点6(損害額)について

1  前記のとおり、被告が被告製品を製造、販売した行為は不正競争行為に該当するところ、前記認定事実によると、被告には、右製造、販売行為につき少なくとも過失があったものと認められる。したがって、被告には、右販売行為により原告に与えた損害につき賠償する義務がある(不正競争防止法四条)。

2  逸失利益の推定

不正競争防止法五条一項所定の「侵害の行為により利益を受けているとき」の「利益」とは、不正競争によって営業上の利益を侵害された者が、当該商品について当該商品等表示を使用している場合で、新たな設備投資や従業員の雇用を要さずそのままの状態で製造、販売することができる個数の範囲内では、侵害行為者の製品の売上額からその製造、販売のための変動経費のみを控除した額を指すものと解するのが相当である。

原告は、紳士服、婦人服等の衣類を製造、販売し、その中にはゴルフウエア等のスポーツシャツ、カジュアルシャツ等ポロシャツと同種の商品も含まれており(甲二〇の一〇、四〇及び四一、甲二六の一九、二一、二四及び二六)、被告の製造、販売にかかる後記六七三五着程度は原告においてそのままの状態で製造、販売することができるものと認められるから、本件の場合、逸失利益の推定の前提事実である被告が侵害の行為により受けた利益は、被告の売上額からその販売のための変動経費のみを控除した額というべきである。

被告は、被告標章一ないし三を付した半袖ポロシャツ及び鹿の子ポロシャツを製造、販売したところ、これらの販売価格はいずれも一着二九八〇円である。そして、平成八年一一月五日現在で、半袖ポロシャツについては、四三五六着販売して一二九八万〇八八〇円の売上を上げたところ、原価が一着一一五〇円であるから右売上数に対応する原価総額は五〇〇万九四〇〇円となり、七九七万一四八〇円の利益を上げたことが認められる。また、同日現在で、鹿の子ポロシャツについては二三七九着販売して、七〇八万九四二〇円の売上を上げたところ、原価が一着一五八〇円であるから右売上額に対応する原価総額は三七五万八八二〇円となり、三三三万〇六〇〇円の利益を上げたことが認められる。(甲四の二、甲九の二、乙二の二)

したがって、被告が被告製品を製造、販売したことによって得た利益は合計一一三〇万二〇八〇円である。なお、被告が被告製品を製造販売するにあたり、直接要した費用が他にもあった点については、主張、立証がない。

よって、原告は、被告に対し、不正競争防止法五条一項により、右金額が原告の受けた損害と推定されるところ、原告は八三五万円を逸失利益として主張するので、その限度で原告の逸失利益を推定する。

3  信用損害について

原告製品のポロシャツは通常一万〇五〇〇円で販売しており、特定のクリアランスセール期間以外は原告製品のイメージを守るため、安売りは一切禁止している。(甲一一)

これに対し、被告は通信販売で被告製品であるポロシャツを、定価が一万一八〇〇円であるところを二九八〇円というディスカウント価格で販売すると広告して販売しており、右被告の行為により、原告製品は高級品であるという信用が毀損されたと認めることができる。(甲四の一及び二、甲一一)

原告各標章の著名性、被告製品の販売形態、販売期間等の諸事情を考慮すると、右信用損害に対する賠償金としては、一〇〇万円が相当である。

(裁判長裁判官 西田美昭 裁判官 八木貴美子 裁判官 池田信彦)

原告標章目録第一

<省略>

原告標章目録第二

<省略>

原告標章目録第三

<省略>

被告標章目録第一

<省略>

被告標章目録第二

<省略>

被告標章目録第三

<省略>

被告標章目録第四

<省略>

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